街を歩いていて何となく目に入った飯屋で昼食をとることにしたのだけれど、食後のデザートという素晴らしく美味しいケーキを俺が頬を緩ませながら堪能していると、隣に腰掛けていた船長がひどく嫌そうな声を上げた。


「  お前、よくそんな甘ェもん食えるな。」


「・・・見てるだけでも胸焼けがするってのに、」 なんて俺とケーキを交互に見ながら、苦しそうにそう言ってくる船長。そんな船長を余所に俺が胃の中に収まっているケーキが乗っていた皿を重ねて追加したケーキを手に取ると、船長の眉間にさらに皺が寄るのがちらっと見えた。(そんなあからさまに寄らせなくても)


「船長もどうですか。ここのケーキ美味しいですよ?」
「・・・いらねェよ、もう。」
「   そうですか?(・・・もうって何だ、もうって。)」


船長の言葉に若干疑問を抱きつつも、目の前にあるケーキの美味しさにその疑問もすぐにどこかへ飛んでいってしまう。それにしても、船長もなんて目利きの良い人なんだろう。飯屋がそこら中にあって俺がどれにしようか悩んでいる側で「どこでも良いだろ、んなモン。」なんて言って、足を向けたのがこの店なのだけれど。


「(ああもう、幸せすぎる。)」


もちろん昼食そのものだって美味しかったが、何て言ったってこのデザートの質と量。どれをとっても文句の言いようがないデザート達に頬をこれでもかと言うほど緩ませながら船長に笑みを向けた。


「船長がこの店を選んでくれなかったら、俺はこんな素晴らしいデザートに出会えませんでした。」
「  大げさすぎだろ、馬鹿かお前。」
「ふふ、ありがとうございます(あー美味しい。)」
「  っ!!」


自分の顔がそれはもうひどい有様になっているであろうことは百も承知だったけれど、それでも止められないのだから仕方がないと開き直って目の前にあるケーキを頬張りながら船長に感謝の言葉を述べると、彼は急に立ち上がって「  酒取ってくる。」 なんて言いながら俺の言葉が聞こえたのかどうか分からないままカウンターの方へと歩き出した。(・・・そんなに甘ったるい匂いが漂っていたのだろうか)


「船長、どうしたんだろう。顔が若干赤かった気もするが。」
「・・・デザートにやられたんだろう。(・・・気付いても良い気がするのだが。)」
「デザートに、か?(   ・・・デザートにやられて顔を赤くするのか?)」


フォークを加えたまま船長の背中を見つめてキラーの返答を聞いていると、客が来たのかドアの開く音がやけに大きく店内に響く。面倒な客でなければ良いのだけれど、そんなことを思いながらちらりとドアの方へ目をやると、これはまたあからさまに面倒そうな輩が数人そこに立っていた。そして運の悪い事に俺はそいつらの長であろう輩と視線がかち合ってしまう。(・・・やってしまった。)


「キラー、目が合ってしまったんだが。」
「それは、運が悪かったな。」
「(・・・他人事のように返事をして、)」
「やあ、そこの少年君。その席を譲ってくれたまえ。」


案の定、そいつらは他には目もくれず俺達の方へとやってきて、こちらに剣先をちらつかせながらそんな事を言ってくる。面倒には巻き込まれたくなかったので見過ごしてくれないものかとケーキを口に運びながら思っていると、奴らはあろうことに、俺の目の前でそのケーキに剣先を突き刺してしまった。


「君がこうなる前にその席を譲ってくれると、我々も助かるのだが?」
「・・・のデザートに手を出すとは、お前も愚かな。」
「何か言ったかね、そこの君。    ん?」
「食べ物を粗末にしてはいけないと、教わらなかったのか?」
「なっ、自分の手で剣先をっ!?」


ケーキから剣先を抜いた俺は言葉を放って奴らに視線を移す。剣先を強く握りしめ過ぎて少々血が流れていたようだけれど、ケーキの怒りが相当だったので全く気にならなかった。「こいつにやられる前に逃げた方が得策だと俺は思うが。」 なんて隣にいたキラーが奴らに声をかけていると、これまた素晴らしいタイミングでキッド船長がお目当てだった酒を片手にこちらへと戻ってきた。(   嫌な予感が、)


「   こいつら誰だ?」
のデザートに剣を突き刺した愚かな奴らだ。」
「ハハハッ!!そりゃあ、馬鹿な事をやったなァ?    ・・・ん?」
「何ですか、船長?」
「おい、   その血は何だ。」


往々にして、嫌な予感というものは良い予感よりも当たりやすいようになっているようで。先程まで奴らを嘲るように笑っていたのに、俺の手から流れている血を目聡く見つけた船長はその瞬間に雰囲気を一変させてしまった。(あー、これは)


「  テメェら、俺のモンに勝手に傷をつけやがって、」
「船長、これは俺が勝手にこいつらの・・・」
「俺のモンに触れた代価を知っててやったんだよなァ? あァ!?」
「ヒィッ!!!」
「いや、だから船長・・・(ていうか、俺のモンって。)」


船長の声に恐怖でそこを動かなくなってしまった奴らは、もう助かりようが無いところまで来てしまっていて。別にこいつらを助ける義務なんて何処にもないし、むしろ船長にやられてしまえと思っているのだけれど、さすがにそんなことをやっている横でケーキを食べることは俺には出来なくて。せっかくのケーキが、なんて落ち込みながら無惨に切りつけられたケーキを見ていると、俺の頭に彼の手がゆっくりと乗ってきた。


「   船長?」
「さっさとカウンターに行ってこい。」


「まだ食い足りねェんだろ。」 ぐしゃぐしゃと乱暴に撫で回す船長。それでもその言葉に、その行動に含まれている意味が俺には理解できたから、緩んでくる頬を抑えきれずに「はい、船長。」 なんて返事をしてそのケーキと食べ終えた皿を持ってカウンターへと向かうことにした。

甘いものはお好き?

デザートはもちろんだけれど、俺は船長に甘やかされるのが一番、



title by 赤小灰蝶 / 甘いものはお好き?