「(? あれ、ちゃんと昨日は、寝たはずなのに、)」
遅くまで読書をしていた訳でもないのに、瞼は俺の意志とは反して重力に応じて下がろうとしてくる。手で目を擦ったり、顔を少し振ったりしてどうにか意識を浮上させようと試みるのだけれど、どうにも上手く行かず、船を漕ぐのを止められない。しまいには、グラスの中でゆれるそれすらも、眠気を助長しているように思えてきた。
「 ・・・?」
「 あ、・・・はい、 何で、すか?」
そんな格闘を自分の中で繰り広げていれば、響いてきたイナズマさんの声に、はっとして彼の方を見やる。気付かれてしまったのだろうか、でも決してこの空間が退屈な訳ではなかった。むしろ俺にとってこの空間はとても心地の良いものである。だから、その心地よさを感じていたくて、必死に霞がかった意識を鮮明にさせようとしているのだけれど、
「 、」
「?? イナズマさっ、!」
再度、俺の名前を呼んできたイナズマさん。先程とは違う、語尾に疑問符が付いていなかったその言葉に、今度は俺が疑問符を浮かべながら彼の名前を呼ぼうとした。・・・そんな時、船を漕いでいた時よりも、大きな衝撃がきて、
「・・・あれ、」
少しばかり、けれども予想よりも遥かに小さかった後頭部へと痛みを感じながら、顔の向きを変えず焦点を合わせれば、なぜだかそこには先程とは違った向きのイナズマさんの顔が映り込んできて。訳も分からないまま、俺は彼を見る事しかできず、少しの間沈黙が流れたけれど、イナズマさんの手が俺の額へと降ってきた事で、俺は漸く事のおかしさに気付いた。
「 イナズマ、さん?」
先程来た衝撃は俺の後頭部とイナズマさんの足が当たったからだと気付いた俺。そしてそれと同時に、俺が今頭を乗せているのはイナズマさんの足であるという事も分かる訳で。普段の俺なら、そこで情けないやら恥ずかしいやらで、慌ててそこから退こうとするのだけれど、・・・あいにく、その感情を引き出してくれる理性が、既に眠気に襲いかかられて負けつつあってしまって、
「 少し眠ると良い。」
「安心するといい、どこにも行かないさ。」 どうやら、イナズマさんには隠し通そうと試みるだけ無駄だったようで。ゆるりと俺の頬を撫でるその手が、彼の顔に浮かんでいるその笑みが、俺の耳に響いてくるその愛しい声が、俺の全てを満たしていって、眠気がさらに増長されていく。
「君が起きたら、また別のワインを飲み直したいんだが、」
「付き合ってくれるか?」 続けざまに紡がれたその言葉を何とか脳内へと送り込み、先程とはまた違った心地よさを感じながら、俺はイナズマさんのその言葉に何とか頷いて意識を飛ばしていったのである。