「( ・・・何、か)」
傾けていたグラスを、思わず止めてしまった。俺の瞳に映るのはその傾けていたグラスに見えるワインではなくて、隣で軽やかに揺れているそのワインの方であって。そこに焦点を持っていった途端に、何故か、その場所から視点を動かせなくなってしまったような感覚に陥った。けれど、でも違う、俺は、ワイングラスの中でゆるりと揺れるその濃い赤色の液体から目が離せないのではなかった。
「(・・・長いなあ、)」
ワインの色とは対照的に見えるその色。ワイングラスを持っているその指に、俺は目を奪われてしまっていたんだと思う。全く同じ物を持っているはずなのに、俺が持っている姿とは、雲泥の差というか、何というか。華奢な(・・・こんな事言ったら怒られるかも知れないけれど、)その手がワイングラスを持つ姿は、上品で、優雅で。俺はそんなイナズマさんの手に、思わず魅入ってしまっていたわけなのだけれど、そんな彼の手が、俺へと近づい・・・・・・え、近づい、て?
「その熱い視線を、私の瞳にも送って欲しいものだが、」
「わ、え、・・・イナズマ、さん? その、気付いて、」
「あれだけ見られていて、気付かない方がおかしい。」
「 それで、何が“長い”んだい、?」 片手でするりと俺のワイングラスを捕まえて、テーブルにそれが置かれる音を聞きながら、そんな言葉を放ってくる彼の声も脳内へと響き渡ってくる。稲妻さんが俺の視線に気付いていたなら、その言葉を聞いていたなら、“何が”そんな事、聞かなくてもだいたい予想がつくはずだというのに、彼はわざとらしくそう俺に訊ねながら、その指を頬へと滑らせてきた。
「・・・分かっているくせに、」
サングラス越しに俺の目を捉えてくるその瞳にも耐えられなくなって、恥ずかしさのあまり下を向いてしまった。元を辿れば、俺が彼の手をじっと見つめてしまったから、こんな事になってしまったのだけれど、ああでもそんな手をしているイナズマさんも悪いんじゃ、なんて思わず責任転移をしてしまいそうになりながら、自分の頬から伝わってくるイナズマさんの体温に心地よさを感じている自分がいることにも気付いて、(これだから、)
「 、」
「??何ですか、っ、」
ずるい人だ、・・・でもその手を払えない俺もずるいのかも知れない。そんな事を思っていれば、側から聞こえてきた俺の名前に、思わず反射的に反応してしまい、いつものように彼の方を向こうと顔を上げようとする、 より早く、俺の頬にあった手が俺の顎を捉えて、彼の方へと顔が上げられて、
「君のその手も好きだが、私は君の全てを愛しいと思っているんだが、」
「 ・・・は、?」
「 は、私の事をどう思っているんだ?」 なんて聞いてくるイナズマさんは、どことなく楽しそうに微笑んで、俺の瞳をのぞき込んでいたのだ。(・・・というか、この人、今とんでもないことをさらっと、)
ワイングラスをなぞる指
その指も含めて、貴方の全てが、 俺は・・・なんて、
title by farfalla / ワイングラスをなぞる指(宝箱の中のひと)