「ったら、もっと食べなさいっ!そんな華奢な身体しちゃって!!」
「いや、あの、・・・もう十分なんですが、」
いつも通りに賑やかなその部屋の片隅でお酒を共に食事を取っていたはずなのに、どこからこうなってしまったんだろう。そんな事を考えても、やたらと量のある肉料理やら酒やらと手に携えた彼らが俺に迫ってきている事実からは逃げられるはずもなく、かといって、俺はじりじりと後退しながら彼らに断りの言葉をかけることしかできていなくて。
「もっと飲めるだろー!!俺と勝負しろって!」
「あら何言ってるの?は私と勝負をするのよ?ねえ、?」
「いや、そのですね・・・」
けれど普段から良くしてもらっている人の誘いを無下に断ることも俺にはできなくて。曖昧な返事ばかりを返してしまいながら、幸運な事に、誰にもぶつかる事なく後退を繰り返していたのだけれど、その幸運の所為か、最初よりも俺に迫ってきている人の数が、何故だか増えているような 気がしてならなかった。(・・・さっき会話した彼女も最初はいなかったような、)
「(・・・どうしたものか、)」
彼らが押し寄せてきている中、焦ってきている頭で何とか打開策を考えようとする。お酒だけなら、まだ大丈夫な気がするが、けれどお酒の方を了承してしまえば、多分もれなく肉料理まで付いてくるだろう。それを想像しただけでも胃がもたれそうになるのを抑えながら、他の案を考えようと思考を巡らせていると、背中にトンと、衝撃がきた。嫌な予感と共にちらりと横目で後ろを見やれば、案の定、そこには俺の後退の行く手を阻むソファが、視界に入ってきて、
「 ふふ、もう逃げられないわよ?」
「( ヤバイ、)・・・えーと、ですね、」
「 ・・・何をしているんだ、?」
「 え?・・・あ、イナズマ、さん?」
不可避な状況になってしまい、冷や汗を流しながらもう諦めようかと思っていたそんな時、どうやら俺はまだ運に見放されていなかったようで。俺の耳へと響いてきたその声に、目の前に迫っていていた彼らから思わずぐるっとその方向へと顔を移して視線をやれば、そこにいたのはワインを優雅に飲んでいた、彼の姿があった。
「ああ、私だよ。 それで、君はまた一体何をしたんだ?」
今、身体も彼の方向へ向けてしまえば、確実に担がれてしまうと思い、顔だけをイナズマさんに向けて会話を続ける。また、なんてイナズマさんから放たれた言葉が若干気になったけれど、今はそえどころじゃなかったから、俺はそれを口に出す事はなく、イナズマさんにこうなってしまった状況を口にしようとするのだけれど・・・
「 いや、俺にも、その、よく分からないんですが、」
「普通に食事していたんですけれど、いつの間にか、何かこんな状況になってまして、」 理由になっていない理由をぽつぽつとイナズマさんに話すのだけれど、そんな説明でもイナズマさんは俺には分からない何かを、そして俺が今の状況から脱したいという事を悟ってくれたらしい。ワイングラスを持っていない方の手で、「こちらに来てくれ。」なんて言ってくれたイナズマさんに、素直に従って、ゆっくりと彼らを刺激しないようにそろそろとイナズマさんに近づけば、
「っ、 わっ!」
「「「っ!!?」」」
急に視界が反転したように見えた。突然襲ってきたその衝撃に何が起こったのかさっぱり分からなくて、今の自分の状況を確認しようと何度も瞬きを繰り返いていれば、ようやく焦点が合ってきた俺の視界に見えてきたのは、見覚えのある、彼のその首筋であった。それで漸く、俺はイナズマさんに後ろ向きにソファへ引き込まれたのだという事を理解する。
「すまないな、は今、手が離せないそうだ。」
「え?あのイナズマさっ!!」
若干混乱していた俺をそのままに、イナズマさんは彼らの振り向きながらそんな言葉を放ったかと思えば、それと同時に俺の背中に回されていた腕が先程よりも強くして、彼との距離が近づいて。そんな状況に、少しの恥ずかしさを共に、思わず彼の名前を口にしようとしたのだけれど、それができなかったのは、 させてくれなかったのは、
「 と言う事だ。悪いが、今日は諦めてくれ。」
「何だよっ、!イナズマさんと約束してたんなら、そう言えよ!」 にこにこと、・・・にやにやとそんな言葉を放ちながら、そろそろとこの場を立ち去って行くらしい彼ら。らしい、なんて曖昧な表現しかできなかったのは、俺は彼にされたその事で頭がいっぱいになっていたからで、(・・・何が「と言う事だ、」ですか、)
ジャッジマンは審判を誤る
「おや、顔が少し紅いが。酒にでも酔ったのか?」 なんて白々しそうに言うイナズマさんの口の端が上げられていたのを俺はしっかりと見ていた。
title by 1204 / ジャッジマンは審判を誤る