「おい、! ぼーっとしてっと怪我するぞっ!」


白ひげ海賊団に喧嘩を売ってきた海賊を相手にしていると、そんな声が俺の下に聞こえてくる。そちらへと視線を向ければ、「躓かないように気をつけろよー!」なんて言葉を続けてもらって、苦笑しながらそれに頷いた。

確かに、少し呆けていたかもしれない。なんて、そう自覚しながらも、それをする事を止められなかった。数だけは一人前にいるようで、周りを見れば、隊長達も最近戦闘をしていなかった所為か、本気は出さないで戦闘を楽しむような戦い方をしている。

そう、俺はそんな隊長達の方を、やっぱり凄いなあなんて思いながらその戦闘を見ていたのだ。 けれど、やっぱり、

そんな中で、俺の目に焼き付いて止まなかったのは、 赤くて、綺麗で、


「(  格好いいなあ、本当に、)」



***



「・・・なあ、、」



あの海賊達との戦闘後、もちろん白ひげ海賊団の勝利に終わったんだが、その船には結構な量の酒を積んでいたらしく、あっという間に甲板での宴が始まって。俺も例に漏れず、皆と酒を酌み交わして楽しんでいたんだけれど、ふと視界に戦闘時に何やらおかしな行動をとっていた奴が入ってきたモンだから、俺は思わずそちらへと声をかけた。


「?はい、何ですか?」


久しぶりの戦闘で、皆がえらく楽しんでいたのは分かる。それは俺だって同じだった。本気を出さずに少し骨のある相手と戦闘していた隊長達に混じって、平隊員である俺達は数で勝負を楽しんでいたんだが・・・その中で、やけにのんびりと、あの戦闘の雰囲気には合わないような、穏やかな笑みを浮かべた、


「お前、戦闘の時、何をぼーっとしてたんだ?」


それでも、に降りかかろうとした奴は瞬く間に蹴り出され、こいつに傷一つ付けることなく終わってしまっていたんだが。普段、何もねェ所で転けて傷を作るくせして、こういうとこは器用だよな。なんて、そんな事を思いながら、先程の事をに訊けば、


「っ、!やっぱりあの時ぼーっとしてたのかっ!?」
「え、いや、その、少し、少しだけ、ですよ?」


・・・そんな俺の声に先に食い付いたのは、本人ではなく、の隊の長である、エース隊長の方であって。・・・ああ、またいらん事を言ったのか、俺は。なんて口には出さないままため息だけ零していれば、エース隊長がバタバタとの方へやってきて、その身体をぺたぺたと触って怪我の有無を確認しながらそんな言葉を放った。そうすればは、そんな隊長に真っ赤な嘘はつけないのか、バカ正直に答えちまうもんだから、


「なっ、あ、危ないだろっ!ただでさえお前は怪我をしやすいってのに!」


「怪我は、してないんだな?」 やっぱり俺が側にいりゃ良かった、 なんて、慌てて注意をしたかと思えば、安心して大きく息を吐き出して、そしてそんな後悔するような事を紡いでまた深々と息を吐き出して。・・・の事になると、ほんとに慌ただしいよな、エース隊長って。

「ほら、隊長、落ち着いてくださいよ。」 少しでも落ち着くようにと(というかこれ以上の事で心配だなんだと言われたら話が進まん。)、俺は開けたばかりの酒瓶を隊長に渡した。


「あァ、すまねェな。」
「いえいえ。 で、は何であんな戦場のど真ん中でぼーっとしてたんだ?」
「う、そ、そんなに分かりやすく呆けてました?」
「ああ、誰がどう見ても、おかしかったぞありゃ。」


「笑ってたから、戦闘を楽しんでるのかと思ったら、敵のいるとこじゃねえ方を見て笑ってるし。」 そんな俺の言葉に、は恥ずかしそうに顔を赤らめて苦笑いを返してくる。生憎、俺の位置からはの見ている方向しか分からず、敵じゃなくて何を見ていたんだかはさっぱりだったから、「どこ見てたんだ?」とそのまま言葉を続ける。戦闘中だっつうのに、あんな幸せそうな顔でどこ見て、 ・・・あ、


「 その、 エース隊長を、見てたんです。」
「ぶっ!!! はっ、? なっ!」
「・・・あー、(幸せそうって、それか。)」


小さく呟かれたその言葉に、エース隊長は飲んでいた酒を思いっきり吹き出す始末で。そして理解してなさそうな隊長の横で、俺は1人納得して言葉と一緒に息を零した。あー、そうだよな。幸せそうな顔してどこ見てんだって訊いた俺がアホだった。あんな嬉しそうな顔してが見るっつったら、この人しかいねェじゃねえか。

酒の所為か、に不意に自分の名前を出された所為か、顔を赤くしたその張本人である隊長が「お、おれっ!?」なんて声を裏返しながら返事すれば、は続けるように言葉を紡ぎ始めて、


「あの、隊長の戦ってる姿を見るのが久しぶりだったので、」


「つい、目が追ってしまって。」 あの、 視界に、隊長の、その赤くて綺麗な炎が入ったら、もう、そこから視線を外すなんて、できなかったんです。空に高く燃え上がっていくその炎も、周りに散って、きらきら輝いてるその火の欠片も、多様に移り変わっていくその炎の色も、 揺れ動いて、燦めいていて、 俺の大好きな、海みたいだなって思えて、 それに、何より、


「 隊長が、楽しそうに笑ってるなあ、って思ったら、」


「俺も何だか嬉しくなって、」 思わず、その、見ていたくなって。 ・・・なんて、それはもう嬉しそうな声で、くしゃりと顔を緩めて、そんなこっぱずかしい言葉を重ねてきて。聞いてるこっちが痒くなるような言葉ばっかよく言えるよなホント。

他人から見れば、海に似てるのがそれ程良いことなのかと、つうか大好きな海に似てると言われても、なんて思うかも知れないが、にとって海がどれだけ大きな存在か、どれだけ想っているかを知っている俺達からしたら、その言葉が最大級の褒め言葉である事くらい言わなくとも伝わってくるし、当然、の事を俺達よりもきっとよく知っている隊長だって、


「な、っ・・・!!」
「 (あーあ、隊長、顔真っ赤にしちゃったじゃねえか。)」


だから、隊長は、吹き出した酒も口から零れたまま、今にも火が出るんじゃねえかってくらいに赤くなった顔をに向けることしかできなくて。そりゃ面と向かって、自分の事をこれだけべた褒めされればなあ。つうかもう大好きって言っちゃってんだもんな。

けれど、言った本人は何で隊長がそんな事になっているのか分かっていないらしい。「? エース隊長?あの顔が・・・酔ってしまったんですか?」 大丈夫ですか?なんてお決まりの言葉を紡ぎながら、頬に手を寄せるもんだから、


「 ま、それがお前の良いとこなんだろうけどな。」
「??」
「エース隊長は任せた。」


この後の展開を予測できてしまう俺に、この場にとどまってわざわざそれを見る趣味はない。だから、すっと立ち上がって、そんな言葉と一緒にの頭をぽんぽんと軽く撫でて、別の奴らと酒を飲み交わそうとその場を後にするのだ。


「え、あの、何が、っ!!」


だってほら、ようやく我に返ったらしい隊長が、頬にあったの手を引き寄せたかと思えば、


「 俺だって、の事が、」

溶けてしまえ

視界の端に入ったのは、これでもかってくらいにくっついて幸せそうに笑ってる2人でした。



title by Lump / 溶けてしまえ(愛5題)