天気は文句のつけようがないくらいに良い天気。そして、とある島へと到着した白ひげ海賊団は、今日も・・・・何というか、いつもの変わりない日常を過ごしていました。(・・・これが日常になってしまってはいけない気がするのだけれど。)


「・・・エース隊長、」
「・・・はい。」
「俺の言いたいこと、分かりますか?」
「・・・はい。」


隊長と部下の関係が逆に見られてもおかしくない今の光景。エース隊長の真ん前に立って彼へと視線を落としているのは俺で、・・・俺の真ん前に正座して妙に畏まって返事をするのは、言わずもがな、エース隊長で。


「・・・隊長、」
「・・・はい。」


波の音が聞こえるほどの静けさに包まれている甲板に俺の声が自分で思ってるよりも冷たく響いた後、少し間をおいて俺の声に体をびくっと震わせたエース隊長の声が静かに響く。まるで悪いことをした後、叱られるのが嫌で顔を伏せている子供のようだった。(いや、実際、怒られる事をしたのだけれど。)


「・・・また、食い逃げ、したでしょう?」
「い、いや、あれはそのだな!」
「したんでしょう?」
「・・・はい、しました。」


俺が放ったその言葉にエース隊長は初めて顔を勢いよくこちらへ上げて、言い訳なんだか、ごまかしなんだか、そんな言葉を慌てて紡ごうとしたのだけれど、その前に俺はさらに言葉をたたみかけた。そうすれば、隊長はいっそう体を小さくさせながら、ようやく肯定の言葉をぼそぼそと紡いでくれた。


「食い逃げしない程度のお金ならあるでしょう?」
「い、いや、つい、昔の癖でだな・・・・つうか、何で食い逃げの事知ってんだ?」


「・・・にだけは、バレないようにやったつもりなのに、」 ・・・俺に聞こえないように呟いたつもりなのだろうけど、全部聞こえてますよ、隊長。海賊が、食い逃げ云々にこだわるのもおかしな話かも知れないが、俺はできるだけそういう事はしたくないのだ、そういう、穏やかで幸せそうに暮らしている島の人達の困るような事は。お金のない時ならまだしも、ご飯代くらいは払える程度に持っているはずなのに、(・・・この人は、全く、)


「・・・口の右端に食べたものが付いてるからです。」
「なっ、!」


理由を訊いてきた隊長に俺がそう答えれば、隊長はその言葉に驚くと、すぐにそれを隠そうと口元へと手を伸ばした・・・そういうところが隊長の長所でもあるとは思うのだけれど、(嘘をつけない人だな、本当に。)


「・・・付いてるのは左端ですけどね。さっきマルコさんから聞いたんです、また隊長が食い逃げしてたと。」
「!!(ぶ、部下にカマかけられた・・・!)」


右端を隠して必死に食べかすを取ろうとしている隊長に口の左端を指さしながらしれっとそう言葉を返して、さらに本当の理由を続ける。けれど、その理由を聞けないくらいに、エース隊長はひどく目を見開いた後、落ち込んでしまったらしい。食い逃げした事に対してかとも一瞬思ったけれど、残念ながらその考えは俺の脳内ですぐに打ち消される・・・カマをかけられたのがそんなに衝撃的だったのだろうか(というか、落ち込み過ぎじゃ、)


「(・・・に、にカマかけられた。)」
「 あー、エース隊長?・・・カマかけた事は謝りますから、そんなに落ち込まないでください。」


何で俺が謝るんだろうと思いながらも、けれど出てくるのはその言葉で。・・・正座したまま、背をひどく丸めて肩を落としている彼を見ていたら、どうも罪悪感が俺の心の中で作られていく気がしたのだ。直立していた身体をエース隊長と同じ視線にするために屈めて彼と視線を合わせようと少しだけ覗き込む。


「・・・、お前俺の事隊長だって思ってないだろ、」


そうすれば、ぐす、と音がしてもおかしくないくらいに、隊長の顔が悲しそうというか、何というか、(・・・また、そんな顔して、)


「思ってますよ。思ってるから隊長って呼んでるです。」
「・・・本当か?形だけじゃなく?」
「ええ、もちろん。大体、形だけなんて俺はそんな事しません。」


「そんな事、隊長が一番よく知ってるじゃないですか。」 そう、俺達の上に立つ隊長であるからこそ、食い逃げなんて事をさせたくないのだ。・・・いや、これは俺のエゴだと分かっているのだけれど、でも、(・・・仮にも隊長という名をもらってる人が、食い逃げ、)(・・・駄目だ、威厳云々以前の話な気がしてきた)


「俺の大切な隊長だと思ってるから、いつでも隊長には格好良くあって欲しいんです。」
「!格好良く・・・」
「はい、格好良く。」


「かっこよく、・・・かっこよく、」 どうやら俺の選んだ言葉は当たりだったらしい。選んだと言っても事実の中から選んだ訳だが、そんな俺の言葉に隊長はぴくっと落としていた肩を震わせて、ぽつりぽつりと繰り返して呟いていると、丸まっていた背中も徐々に背筋が伸びてくる。再度視線を合わせたその瞳には、先程にはなかったきらきらとしたそれが、(まるで、子どもが嬉しそうにしている時の、)(・・・隊長を形容するのに子どもという言葉を使ってしまった、)


「食い逃げしなかったら、は俺の事かっこいい隊長だって思ってくれるんだな?」
「(・・・何か違うような気がするけど、)まあ、そうですね。 ああ、でも、」
「??」
「俺にとっては、別に食い逃げとか関係なく、隊長はいつも格好良いですよ。」
「っ!!」


「いつもと変わらない、俺の大好きな隊長です。」そう、そうなのだ。俺にとっては、食い逃げしようが何しようが、隊長はいつも隊長なのだ。そうやって、俺の言葉に一喜一憂してくれるところも、嘘が下手なところも、全部、俺にとっては。

けれど、やっぱり周りの目もあるのだから、少しはしっかりして欲しいと部下としては思うのだ。いや、親父さんを筆頭にそういう細かな事を気にする人達ではないことくらい、分かっているのだけれど、それでも、やっぱり、(自分の隊長には、格好良くあって欲しい訳で、)

・・・でも、そんな事を言ったって、結局、


っ!」
「っ、わ!  エース、隊長?」


結局、目の前にいた隊長が急に俺の名前を呼びながら俺を抱きしめてきて。ぎゅうっと力一杯抱きしめられて、


「俺も、俺もの事っ、大好きだからなっ!」


満面の笑みでそんな事を言われてしまえば、食い逃げの事なんて忘れてしまって、隊長の背中へと自分の腕を伸ばしてしまうのだ。


「・・・エース隊長、」
「・・・はい。」


・・・たとえ同じ事を、何度繰り返すことになっても。

限度は二回

とかなんとか言いながらも、結局俺は何度でも彼を許してしまうのだ。



title by 赤小灰蝶 / 限度は二回