「( 壮大で、荘厳で、)」
元々、寒いのに強い体質ではないから、冬島の気候に安定して雪が頻繁に降り始めた頃からあまり甲板に出ることはおろか、自室の窓すらもめったに開けないなんて事までして、寒さから身体を守っていた訳なのだけれど、・・・でも、今日は珍しく快晴になった、と航海士さんが教えてくれたから、
「( とても深い、)」
視界いっぱいに広がるこの海を見たくて、コートにマフラーと防寒対策を完璧にしてこうして珍しく甲板へとやってきたのだ。冬の海の色はとても深い青色をしていて、他の季節とは違った色を見せてくれている気がするから、この時季の海は大好きなのだ。この寒さが影響しているのかも知れない、なんて思ってしまう程に、深い、深い色をしている。
「 ・・・っくしゅん、 う、(さすがに冷たくなってきた、)」
再度、吹きつけてきた風にくしゃみをしてしまった。服を着込んでいても、冷たい空気はそれすらもかいくぐって身体へとその冷気を伝えてくるようだ。・・・けれど、今日はその寒さもいつもよりも結構ましな方なのだ。いつもなら10分たらずで終えてしまうのだけれど、今日はそれよりもずっと長い時間、海をこうして眺める事ができているのは、
「っ! くしゃみしてんじゃねェか! ほら、もういい加減に戻るぞ?」
「・・・本当に風邪ひいちまう。」 心配そうな声色で俺へとそう言葉を放ってきたのは海を見てくると言った俺についてきてくれたエース隊長で。俺のすぐ後ろで、俺を抱き込むように手を伸ばしてエース隊長は立っていたから、たぶん、くしゃみの時に俺が震えたのも感じとったんだろう。俺の腹部に回していた隊長の手にさらに力がこもった気がした。
「ふふ、大丈夫ですよ。そんなに柔な身体してません。」
「・・・けど、手だってこんなに冷たくなってるだろ。」
そう言ったエース隊長の手が、息を吹きかけていた俺の手へとするりと伸びてきた。俺の後ろにいるから、隊長の顔は見えないのだけれど、でも俺の冷たくなってしまっている手に触れた後しかめ面をしたんだろうな、なんて事くらいは俺にも分かった。けど、俺はそれに気付いていない振りをして、エース隊長へと言葉を紡ぐ。
「隊長の手は、 温かいですね。」
「ん? ああ、まあ俺はメラメラの実の能力もあるしな、他の奴らよりも体温は高いかもな。」
「まあ、の場合は冷え性だから余計と温かく感じるかも知れねェが?」 だから、もう戻るぞ? なんて後ろにそんな言葉は続くような言い方だったけれど、やっぱり俺は気付かないふりをする、・・・いや、気付かないふり、というよりも、それに気付く前にエース隊長の放った言葉に何だか違和感を覚えたから、
「 隊長の、」
「ん?どうした?」
「エース隊長の手が、 身体が温かいんです。」
「?? だからそれは俺も体温が人よりも高いから、そう感じるんじゃねェのか?」
ぽつりと紡いだ俺の言葉に、隊長は疑問符を頭の上に浮かべながら先程と同じような答えを返してくれた。けれど、違う、違うのだ。俺が隊長に伝えたかったのはそういう事じゃなくて、隊長の、俺に触れてくれているこの手が、 俺を包み込んでくれているこの身体が、 ひどく温かくて、心地よいのは、
「ふふ、違います、隊長。」
「ん?? 何が違うんだ?」
「隊長が温かいのは、悪魔の実を食べたからとか、そういう物理的な理由じゃなくて、」
「貴方自身が、温かいんです。」 メラメラの実を食べてなかったとして、こうして隊長とくっついても、きっと温かいと俺は口にしたと思います。この温かさは、貴方が持って生まれたものだと、貴方自身から出る温かさで、心地よさだと、 俺は思うから、
「だから、 隊長の手は温かいんです。」
伝え切れたかどうかは分からなかったけれど、でも先程俺の中に生まれた違和感はもう姿を消していた。そんな言葉を紡いでいたその間も隊長のその温かさを感じる事ができていたからか、俺の頬は緩みっぱなしになってしまって、その心地よさに思わずゆるりと瞼を閉じる。
そんな事をしていると、不意に、ふわりと俺の肩へと重力が掛かった。瞼を開けてそちらへと視線を動かせば、そこにはゆるりとカーブのかかった黒色の髪が映った。どうしたんだろうと、「エース隊長?」 なんて声をかければ、言葉よりも先に返ってきたのは 温かい、抱擁で、
「 エース、隊長?」
「・・・あと、5分だけだからな。」
「あと5分したら、本当に部屋に戻るぞ。」 続けるように返ってきたその言葉。隊長の顔は依然として見る事ができなかったけれど、でももぞもぞと俺の肩に埋めたその顔を動かしながら放ったその声に嬉しい、なんて感情が乗っていることくらいは俺にも分かるから、
「 ふふ、 ありがとうございます、エース隊長。」
・・・でも、それもやっぱり気付いていない事にして、俺は隊長と同じ感情を自分の声に乗せながらゆるりとそんな言葉を紡いだのだった。( ふふ、温かい、)
冷たい風に逆らって
伝わってくる体温が俺の全てを包んでくれている気がするのは、きっと気のせいなんかではなく、
title by White lie / 冷たい風に逆らって(冬の日に十題)