「 、」
そんな海へと視線を移していれば、後ろから聞こえてきたのは振り返らないで分かる、その人の声。俺の名前を呼んだ後、何を言うでもなく俺が座り込んでいる見張り台へと上って来て、俺の後ろへとするりと入り込んできて、
「 エース隊長、」
俺のその声に反応するかのように、俺の腹部に回されていた腕の力が少しだけ強くなる。陽が沈んで日が変わった、そんな今日を意識してここへと来てくれたのか、それともただ何となく来てくれたのか、それがどっちでも俺は良かった。ああ、これでは言い方が悪い、エース隊長が俺の元へと来てくれた理由が、どちらにしたって、俺は、(ああもう、顔が緩んで、)
「 、」
首元に埋められていた顔が少し上がって、耳元で囁かれたそんな声。それと同時に隊長の吐息が入り込んできて、くすぐったさに思わず顔を捩らせる。そんな事をしながらも、俺は隊長の方へと自分の体を預けて。名前を呼んでくれるその愛しい声が、全身から伝わってくる隊長のその体温が、いつも感じている心地よいそれらが、何故だか今日はいつもよりも特別に思えてしまうのは、
「 隊長、」
「ん?」
「 愛してます、」
腹部に回されていた指へと自分のそれを重ねて、緩んでいた顔をもそのままで、彼へとそう言葉を紡ぐ。心地よいその沈黙を破って紡いだその言葉に、エース隊長は困るわけでもなく、すぐに俺の脳内へと響かせてくれて、「ああ、俺も、 愛してる、」 彼の顔を今の体勢では見る事ができないけれど、きっと俺と同じように貴方も、
「誕生日、おめでとうございます、エース隊長。」
海へと視線をやったまま、目の前にある海へも響くように囁いたその言葉。目の前にあるその海さえも、彼の特別なその日を祝っているかのように輝いているような気がするのは、俺の気のせいかも知れない。けれど、俺自身は、愛しくて堪らない貴方の、その日を、
「 、」
「はい? なんです、」
呼んだのは自分のくせに、返事をする俺のその唇へとゆるりと噛み付いてくる事ができるのは、 いつの間にか視線が、身体の方向が、俺が見ていた海とはまた別の方向の海を向いていて、それを背景に、目の前には俺の大好きな笑みが、瞳が、
「 、」
再度、俺の名前を口にする。けれど、先程とは違って、隊長は俺の返事を待つかのように、沈黙を通して俺の瞳をのぞき込んできた。けれど、隊長が待っているのは愛しいと紡ぐ事でも、彼の名前を呼ぶ事でもないのだろう。そんな色が隊長の瞳に映っている気がしてならなかったから、俺は、喉を、唇を、震わせる代わりに、
海中オーロラ
そうすれば、隊長は俺の後頭部へと、腰へと、自分の手をゆるりと回してきてくれたのだ
title by 赤小灰蝶 / 海中オーロラ