「( 涼しいな、)」
甲板へと出れば感じられたその顔にあたる潮風にそんな事を思いながら視線を目の前に広がっている海へと、空へと向ける。昼間とは違ったさらに深い色を魅せてくれるそれに、いつも見ているはずにもかかわらず、いつの間にかそれへと視覚すら、心さえも奪われていって。
「 (どこまでも、 深い、)」
彼らに誘われるようにして魅入っていれば、無意識のうちに彼らへと少しでも距離を近づけるかのように歩を進めていて気付けば船縁の所まで来ていてしまっていた。予測できない彼らのその動きにいつだって俺は心を持って行かれ、彼らと少しでも融け合うことができないだろうかとそんな考えすらも抱いて。それが烏滸がましい事だなんて理解しているのだけれど、それでも俺は彼らへと解け合いたいと希って、 腕を伸ばして、
「( 融け合おうとすることを、) 貴方は、」
やっとの思いで喉を震わせて紡ぎ出した言葉は深海へと沈んでいくのだけれど、返ってくるのはもちろん波打つ音だけであって。返事なんて最初から求めていなかったはずなのに、それでも答えが返ってこなかった事に妙な虚無感を抱いてしまったのは、
「 、」
それでも依然として伸ばす手を引っ込めることなく海へと視線をはずさないでいれば、後ろからふわりと包み込まれる感覚と、耳へと響いてきた心地よいその音。その方向へと首を向けなくとも後ろから腕を回してきたその人は紛れもなく彼だという事を、感じられるその全てから、俺に伝わっていて。
「 エース隊長、」
腹部へと回されたその手へと自分の手を添えるようにしながら隊長の名前を呼べば、隊長は俺の手を自分の手の中へと巻き込んできた。「 、」今にも寝てしまいそうな声で俺を呼ぶのだけれど、俺へと回された腕は先程よりもその力を増していて。
「どうしたんですか、隊長?」
眠りかけているはずなのにどこにこんな力があるのだろうかと思うほどのそれで俺を抱きしめてくる隊長にそんな言葉を投げかければ、隊長から返ってきたそれは何とも、
「 お前が海に飲み込まれちまうんじゃねェかと思った、」
「 部屋にいねェと思ったら、こんな所に居やがって。」 隊長は拗ねているような、心配しているようなその声調で俺へとそんな言葉を放ってくる。続けざまに言われたそれは脈絡のないそれに思われたのだけれど、それでも隊長が俺の事を想ってくれていると分かる言葉には変わりなくて。もぞもぞと肩に埋めている顔を動かしてそう言葉を口に出すエース隊長に愛しさを感じて背中から伝わってくる彼の体温を正面からも感じたいと思ってしまい、隊長の方へと身体を向けようとした、そんな時、俺の身体を後ろへと向かせたのは、 他の誰でもないエース隊長であって。
「海に飲み込まれるなんて、 俺の側からいなくなるなんて、」
「 そんなこと、 させねェ。」 自らの両手で俺の顔を包み込んでその瞳を俺の瞳に映したかと思えば発せられたそんな言葉。それは俺へと放たれたものなのか、彼らへと放たれたのか、どちらとも取れるそれだったけれど、今はそんな事よりも隊長のその言葉が俺の体内へと、脳内へと、心身へと広く染み渡って、奥深く染み込んできて。(ああもう、貴方は本当に、)
「 飲み込まれませんし、いなくなったりなんてしませんよ。」
「貴方がそう望んでくれる限り、ずっと。」 気付いた時には彼の言葉にそう返していて、俺のその言葉に笑みを零して顔を近づけてくるエース隊長の背中へと腕を回して、自らもその距離を縮めて行くのであった。
背中に回した腕は
それなら、は俺の側に一生いねェと駄目って事になっちまうな?なんてそんな愛しい事を言ってくれる貴方に、俺は、
title by 赤小灰蝶 / 背中に回した腕は