どうやら寝てしまったらしい俺はまたいつものように唐突に目を覚まして左右を見渡す。けれどそこには俺の隣で酒を飲まずに茶をちびちびと飲んでいたの姿はなくて。代わりに視界に広がったのは見慣れた俺の布団だった。再度あいつの名前を呼んでも返事がなかったから、俺は嫌な予感がしてそのまま即座にベッドから飛び降りて慌てて甲板へと向かった。
「っ!!」
「あら、エース。どうしたの、そんなに血相変えて。」
「ああ、知らねェか!?」
甲板に出て名前を呼んでもそれがいつものように返ってくることはなく、代わりに親父専属のナースが「ようやく起きたのね。」と声をかけてきた。彼女にあいつのことを訊ねてみれば、「なら貴方をここに運んできてまたバーに行ったみたいよ?」 なんてとんでもない答えが返ってきて俺はすぐさま血の気が引くのを感じた。(これじゃ俺がと一緒に行った意味がないじゃねェか!!)
「っ、意味の分からねェ気遣いしやがって!!(嬉しくないわけじゃねェけど、つーかむしろ嬉しいんだが!!)」
ナースの言葉を聞いてすぐに俺は向きを変え、船を飛び降り、先程までいたそのバーの方向へと駆けだした。後ろから「もう少しを信じてやれよい。」なんてマルコが呆れた声で言ってきた気がするが、それに返すだけの余裕が今の俺にはなかった。(お前だって知ってるだろ!あいつの、無自覚なあれをっ!!)
***
「ねえ、私達と一緒に飲まない?」
「・・・(どうしたものか。)」
俺の所属している2番隊の隊長であるエースさんを船へと運んだ後、またそのバーへと引き返したは良いけれど、どうやら今日の俺は運が向いていなかったらしい。隊長に何も言わずにこうしてバーへと戻ってきたものだから、せっかく一緒に隊長が飲もうと言ってくれたのに悪かったかな、なんてそのことで頭をいっぱいにしていたら目の前にいる女性に気付かずぶつかってしまったのだ。それは俺に非があるから転んでしまった女性を起こそうと手を貸したら・・・そのまま手を離してくれず、今に至るわけだけれど。
「(隊長にここにいてもらったら良かったかな・・・)」
「あら、可愛い顔じゃない?」
「・・・ありがとうございます。(いや、でも隊長もきっと疲れていたんだろうし・・・)」
失礼な態度をとるのも何だか申し訳なかったから当たり障りのない対応を女性にとりながら、そもそも俺がこうしてバーに戻ってこなかったら良かったのか?なんて思ったりしていると、いつの間にか空いていた片側にも女性が座ってきていたらしく女性独特の香水の刺激に顔を顰める。ここに戻ってきてからそんなに時間が経っていなかったけれど、大人しく今日は帰ろうかと思案していると、この店のドアが壮大に開かれる(壊れる)音がした。
「っ!!!」
「 隊長?」
そのドアの前に立っている彼の姿に確かに船に運んでベッドに寝かせたつもりだった俺は目を疑ったけれど、それは紛れもなく隊長の姿であって。「どうしてここに?」 ようやくそう紡ぎ出した言葉に隊長は「お前がここにいるからだ。」なんて訳の分からない返答をしてくるだけで。(この状態を見た瞬間、隊長の眉間に皺がひどく刻み込まれた。)(何でだろう?)
「え、ちょ、隊長?」
「悪ィな、姉ちゃん。こいつは 俺の部下なもんでね。」
その返事を理解しようと頭の中で噛み砕いていたのだけれど、そんな俺の努力を無視するかのように隊長は俺の方へと近づいてきてそのまま樽を持ち上げるような形で俺を肩に担ぎ上げた。彼の突飛な行動に俺は声を上げるのだけれどそれを聞いているのか聞いていないのか、隊長は俺を担いだままそう言葉を放ち、壊れたドアを跨いで船へと歩を進め始めた。(・・・隊長、この格好は)
不安要素を排除
・・・何があった。(俺がいなくなった途端にあんなことに!!) え、いや、彼女を転ばせてしまって・・・ていうか隊長この格好、 っ、あーもう!だから言ったんだよ!!(何でこいつはこんなにもっ!!) だからって・・・俺何も言われてないんですけど。あの隊長、この格、 俺は言った! 心の中で!! ・・・隊長、それは言ってないって言うんですよ(何なんだ、もう。)
title by 赤小灰蝶 / 不安要素を排除