「っくしゅ、!」
「・・・(半分犬でも風邪はひくのか。いや、犬も風邪はひくのか??)」


部屋の中へと響くのは、やけに浅く、速く行われている辛そうな呼吸音と、呆れるようにゆっくりと吐き出されるそんなため息。この一室の家主であるキッドは、居候、という形でこの家に住み着いているという青年をベッドへと半ば強制的に寝込ませて、即座に口へと突っ込んだ体温計に視線を落とした。そこに映し出された数字に、思いっきり吐き出したはずのため息が、再度漏れ出てしまう。


「・・・39度5分って・・・お前、これの何処が微熱なんだよ。」
「犬の平均体温は、元々高いから、別に、問題ない。」
「それだけ息づかいを荒くしながら、よくそんな事が言えるな。」


「・・・それに、てめェは半分人間じゃねェか。」 大丈夫なんて言葉とはほど遠いようなその掠れ声で、そんな言葉を言ってのけるに、再度呆れるようにしてそう言葉を返すキッド。ぺちっと、軽く叩いたその額は、ひどく熱く、汗で水気を帯びていた。

がここで暮らし始めて1ヶ月ほど経っただろうか。やはり今までの生活とまるで変わった所為だろう、ついに、は体調を崩してしまった。ここ数日、身体が重かったのはこれが原因か、なんてはベッドへと寝かされた後、ようやく合点がいった。その身体の違和感を家主である彼に話せば、こうして寝込まずに済んだかも知れない、という事に本人は気付いていないし、気付いていても彼は話さなかっただろうけれど。


「・・・う、」


ぺちんと叩かれたその額へと、冷やし直したタオルが少し勢いを付けてべちん、と乗せられたからか、それともキッドのそんな揚げ足を取るようなその正論にか、は呻いてしまいながら、速くなってしまう呼吸をなんとか元に戻そうと、深く息をしようとゆっくりと大きく空気を吸い込む。その呼吸の度、肩が上下している事を見れば、すぐに苦しいのだと判断できるのだけれど、案の定、その事に気付いているのは家主の方だけだった。


「良い、から、早く、仕事に、」


「今日も、平日だろ?」 寝込んだまま、起き上がれないような状態にもかかわらず、はキッドへとそう言葉を続けた。実際に、の目に映っているのはスーツを身に纏ったキッドの姿なのだから、会社に行こうとしていた事は明白だった。

けれど、ベッド脇に座り込んでの様子を見ていたそのキッドはと言うと、の言葉に「あァ、そうだな。」なんてどうでも良さそうな声で返して。それに気付く余裕すらもないのか、は自分の言い分を述べようと必死に掠れ声で伝えようと口を開く。


「俺は、大丈夫、だから、」


明らかな強がりの理由は、彼の性格の為か、彼の家主を思っての為か。たかが1ヶ月、と一緒にいただけであるが、1ヶ月間、何も知らずに過ごしてきた訳ではない。吐き出す言葉の裏に、どんな意図が含まれているのか分かるくらいの時間を彼と共に過ごして来たという自信が、そしてが今放った言葉の意図を理解する自信が、キッドにはあった。


「ほォ? どうやって治すってんだ?」
「・・・寝てれば治る。」
「・・・いや、それも間違っちゃいねェが、」


からかうようにして訊いたその言葉に、未だに強がっているそんな言葉が返ってきて思わず脱力してしまう。いつになったら、この意地っ張りをこの居候は直してくれるのだろうか、なんて思いながらも、同時に、この性格は一生直らないんだろうという事を確信していた。

・・・それに、

「ったく、お前ェは本当に強情だな。」
「・・・そんなこと、ない。」
「そんなことあンだよ。・・・まァ、普段は別にそのままでも構わねェが、」


そんな所ですらも、もう既に、愛しいなんて感情が湧いてきちまうくらいに、


「てめェの身体が弱ってる時くらい、俺を頼れ。」


ぐしゃりと、大きな手で撫でられる。それだけで、ひどく安心感が得られるのは何でだろう、なんては一瞬そんな事を考えたが、常日頃から思っているその疑問を、熱で溶かされたみたいに思考回路が止まっている脳内で考えられる訳がなかった。それに加えて、聞こえてきたその心地よい声の所為で、尚更それどころじゃなくなってしまった。

・・・意地っ張りな事くらい、自覚している。でも、決して家主が嫌いとか、そういう訳じゃない。嫌ならとっくにこの家から出ている。でも、それ以外の方法を試そうにも、恥ずかしさやら性格やらが邪魔して、どうにも上手くいかないのだ。

・・・それに、


「・・・風邪、なんて、そんな大層なものじゃない。」
「あァ、分かった分かった。ンなに心配しねェでも、寝てる間もここにいてやるよ。」
「・・・(ぜったい分かってない。)」


こうやって、意地っ張りでも、俺の家主は俺を甘やかしてくるもんだから、(・・・そんな事されるから、俺はいつまで経っても、)


「   ほら、さっさと寝ちまえ。」


照れ隠しのつもりに吐き出されたその言葉を、けれどキッドは笑みをその顔に浮かべたまま、の言葉には返事をせずに、別の言葉を紡ぎ出しながら、彼の真っ赤な頬をゆるりと撫でたのだ。

そういうところも可愛いけれど

「・・・ありがとう、ござい、ます。」 少しだけ垣間見える、精一杯の彼のそんな素直な言葉が、堪らなく可愛く見えてしまうのは、



つ、つんでれ・・・なのか??(知りません) ツンデレという言葉にひゃっほいしながら書いていた所為か、犬化要素がそんなに出ませんでした、す、すみませんっ。というかそれ以前にこれはキッドなのかという問題がっ← す、素敵なリクエストをありがとうございました!書いてる本人はとても楽しっ(以下略) す、少しでも楽しんでいただけましたらこれ幸いですっ。
requested by 零崎千里様


title by リライト / そういうところも可愛いけれど(「恥ずかしがりやな君へ5のお題」)