ほとんどの生徒にとっては心躍る夏休みということで、例外に漏れず俺もその夏休みを満喫しようと睡眠時間をいつもよりも長く取り、素晴らしい1日を過ごそうと思っていた矢先に入っていた電話。生徒会長という役柄を務めている宿命か、書類整理を任されてくれないかという電話越しに聞こえてくる、聞き慣れてしまった先生のその声。睡眠を貪っているだけで特に予定も何もなかったので了承の返事以外するわけにもいかず、とりあえず俺は電話を切ってハンガーに掛けてあるシャツを羽織ることになった。



「えーと、これは・・・」


無事に学校へと着いてしまった俺は先生へと一言言って生徒会室へと向かい、早速仕事へと入った。一応綺麗に整理をしているつもりだったから、一体何をさせられるんだろうと思っていれば、出されたそれは3年前の書類であって。こんなもの、その代の人達がやるものではないのだろうかなんて不満たらたらに先生を見つめれば「・・・まあ、頑張れ!な!!」 なんて一言口に出してそそくさと出て行ってしまった。(逃げたな)


「(それにしても、わざわざ夏休みに出さなくても・・・)」


というか先代の人達はこんな事になるまで一体何をしていたんだろうか、今となってはあまり意味をなさないそんな疑問を抱きながらも手だけは動かして書類整理に勤しんでいれば、どたばたと騒がしいくらいに大きな足音が耳に入ってきた。その音は明らかにこの部屋へと近づくにつれ大きくなっているのが俺の耳に響いてきて。その音も聞き慣れてしまっていた俺は何を慌てるでもなく、これまた大きな音を立ててこの部屋のドアが開かれるのを手の中にある書類を見ながら聞いていた。


「(ガンっ!)  っ!!」
「・・・一応、俺は君の先輩にあたるはずなんだが。それとドアを開ける時はだな・・・」
「夏休みなのになんで学校に来てんだ!?おかげで無駄な体力使っただろ!」
「・・・人の話を聞かないで、君は。」


生徒会室へと入ってきて早々、俺に散々文句を放ちながら俺の隣へと勢いよく腰を下ろすのは、俺の後輩であるはずのエース。何の了解も得ず、テーブルの上に置いてあった俺の水を飲み干していく姿は本当に後輩なのかと疑ってしまう程のそれであった。(実際、彼は俺の事を先輩と思ってくいないのではないかと思う。)


「先程、書類整理を頼まれたとメールを送っただろう?」


自分の喉を潤したかと思えば、いつものように俺の肩へと自らの背中を預けてきて。生徒会のメンバーではないはずである彼がこの部屋にいてこうして俺の隣を陣取る光景もこの生徒会室では日常のそれと化してしまった訳だけれど・・・いや、それを何だかんだと甘やかしてしまっているのは俺な訳なのだけれど(どうも、俺は彼に弱いらしい。)


「なあ、これどれくらいで終わんだ?」
「そんなに時間は掛からないと思うが。(あー・・・これは、どこに置いたか。)」
「!!じゃあ、この後ん家にそのままっ、」
「あー、エース、ちょっと待ってくれるか?(これは訊いた方が早いな。)」


嬉しそうな顔をこちらに向けて話しかけるエースの声を遮って携帯を出し、エースも顔なじみである彼へと電話をかける。書類の置き場は彼に訊くのが一番効率的な方法である事を幾度となくここへと通っているエースにも分かったのだろう、俺が携帯を取り出して書類に目を凝らしている所を見ただけで「また、マルコかよ・・・」とまたもや先輩であるはずの彼の名前を敬称なしに呼んで眉間に皺を寄せて不機嫌そうな顔へと変化させた。


「ああ、マルコ。急にすまない、実は書類整理を頼まれて学校に来ているのだが、」
『学校?1人で大丈夫なのかい?人手が必要なら行くが、』
「ふふ、ありがとう、大丈夫だよ。それで、書類をどこに置いたか忘れてしまったのだが・・・」
『・・・ああ、それなら、ドア側から3つめの2段目の奥だよい。』
「ああ、あそこだったか。ありがとう、助かった。」
『分かったならそれで良いよい。あまり無理をするなよい。』
「ふふ、分かっている。マルコも心配しす・・・」


生徒会の役員であり、俺と同じクラスでよろしくしてくれているマルコ。少々心配性というか何というか、まあそれも心地の良いものであるから別に何を彼に言う訳でもないのだけれど。いつものようにそう声をかけてくれるマルコに笑みを浮かべながら返答していれば、隣からすっといきなり腕が伸びてきて、


「おい、エース・・・」
「マルコっ!!」
『・・・その声は、エースかい?(何やってんだい、まったく。)』

は俺のだ!!マルコになんか・・・つーか誰にも渡さねェ!!」


人がマルコと会話をしていたというのに、自分の言いたい事を言い切ったのか彼はそのまま勢いよく携帯の電源を切ってしまって。突飛な彼の行動に対処する事が出来なかった俺は携帯をテーブルへと置くや否や俺の方へと飛び込んできて首元へと顔を埋めてきたエースの様子を見て、ようやく理解して思わず深く息を吐き出してしまった。


「・・・エース、君はまったく、」
「・・・何だよ、」
「(それは俺の台詞だと思うんだが、)」


ソファへと押し倒された形になった俺はその身体を起こしたかったのだけれど、それもどうも許されないらしく。仕方なくそのままの状態で抱きついてきた彼の背中をさすっていれば、もぞもぞと埋めていた顔をゆっくりと上げてその瞳に俺を映してきて、


「俺が側にいんのに、他の奴と嬉しそうに話すんなよ、」


「俺だけを見てれば良いだろ、」 自分の額を俺のそれにくっつけてきて、拗ねたようにそんな言葉を紡ぎ出してくるエース。唇を少しだけ尖らせながら言ってくるその姿に、不謹慎ながらも俺の顔は徐々に緩んでいってしまう訳で。「・・・何笑ってんだ、」 なんて先程よりも尖ってしまったエースのその唇に、結局俺は我慢出来なくなってしまってそれに触れてしまうのである。

胸の奥の甘い痺れと

そうすれば、膨れ面だった彼の顔に愛しいその笑みが戻ってきたのだ



素敵なリクエストをありがとうございました!
requested by ノア様


title by 確かに恋だった / 胸の奥の甘い痺れと